僕はまた行き詰まってしまった。
道がもうないように見える。
この先をどうやって生きて行けばよいのだろう。
マネージャーの佐原さんからは、正社員にならないかという、提案を受けていながらまだ返事をしていなかった。
決して大規模な会社ではないが、カウンセラーの育成、企業へのカウンセラーの紹介などのサービスを提供していて、順調に売上を伸ばしていた。
メンタルに関する需要は、今後間違いなく右肩上がりの成長をする市場であり、それに対してカウンセラーの質・人数が明らかに不足していた。
その意味で、これから面白い会社であると思う。
正社員になれるというのは本来ならば、即答でokと言いたいところでした。
彼女との間に限界を感じ始めた
このままずっとバイトのまま、年をとっていくしかないのだろうか?
最近のゆり子の反応がきつくなってきた。
僕より2つ年上のゆり子は今年で、30歳になるし、結婚も考えるときに来ていた。
彼女はすてきな女性だったし、鋭い知性と感性を持っていて、そして本質的な自由を知っている女性だった。
僕は、彼女から影響を多分に受け、人間としての成長と、心理学的な面での知識をたくさん学ばせてもたった。
しかし、結婚というのは考えられなかった。
この極めて脆弱な自分が結婚なんて、ありえない。
しかし、今思うと彼女は結婚なんて考えていなかった気もする。
結婚という形よりも、精神面の関係性という意味で次のステージに行くことを求めていた
そのステージに行こうという気配が全くない僕を見ながら、そこにズレが生じ、そのズレが日増しに大きくなっていくのをお互いに感じていた気がするのです。
僕は幼稚なままで、彼女の求めていることへ、応えることができなかった。
あがり症克服セミナー
彼女は、あいかわらずあがり症に振り回されていて、そこから一向に抜け出す気配のない僕に苛立ちをかんじはじめている気がした。
そんなある日、彼女が「あがり症」克服セミナーがあるから、行ってみたらという。
彼女のカウンセラー関係の友人が実際に「あがり症」を克服したというセミナーらしい。
僕は気が乗らなかった。
話し方教室で成果がほとんどなかった体験をした直後で、もうセミナーとかそういうのはいきたくなかったのだ。
「お金と時間だけがかかって、結局なんの結果も出せないまま終わる」という思いが強くあった。
彼女はメールでそのパンフみたいな物を送ってくれていて、写真でセミナーの風景が乗っていて、その講師の人が熱弁を奮っている様子が写っていた。
タイトルには「あがり症を努力せずに2カ月で克服する方法」と書いてあった。
2カ月で、できるわけないでしょ!
と思った。
そして、結局僕はそのセミナーには行かなかった。
しばらくは、セミナーでどうこうしようということから離れたかった。
司会をやってみよう
僕は仕事に打ち込みたいという気持ちが、湧き上がっていた。
その流れで、意を決して、司会をやってみようという気持ちが芽生えはじめていたのは夏の頃でした。
それは、8月下旬でとても暑い日だった。
夕方の時間にセミナー担当のリーダーである矢吹さんにその旨を言うと、分かったけど今は全部のセミナーの司会が決まっていてスケジュールも組まれているからしばらく待ってくれと、言われた。
うまくできる見込みはなかったけど、薬をうまく使って乗り越える気持でいた。
司会は最低でも2回/週やる必要があるので、100%薬に頼ると、どこかで破綻をきたすのは分かっていた。
しかし、最近ほとんど飲んでいないので、飲まないと、少量でも効き目が得られるという傾向が僕にはあった。
同時に、飲むスパンが短くなると、どんどん効かなくなるという傾向もあった。
でも、どうにでもなれという気持でやりたくなった。
司会をする自分を想像すると、何故だか微かにうれしい気持ちとが生まれたのと同時に、強烈な不安感も湧き上がった。