あがり症を克服するには、多くの場合複数の要素を改善することで、実現すると思います。
それは、心理面、話し方のテクニック面、身体面の3つです。
そして、この3つは人単体で見たときの分類です。
さらに、見ていく必要があるのは、対人との関係性という視点です。
他人との関わり・関係性があがりに大きく影響を及ぼしているということは、誰もが認識していることでしょう。
この観点を見ながら、あがり症と向き合うことをしないと、なかなか克服の道筋が見えてこないと思います。
《心臓がドキドキせずあがらずに話せる本》は、他人との関係性、コミュニケーションという観点を見ていく、キッカケになる本だと思います。
この記事では、《心臓がドキドキせずあがらずに話せる本》を読み実践することで、本当にあがり症を克服できるのか?この本でしか得られない情報・メソットは何か?この本の素晴らしい点は何か?この本の欠点は何か?この本の根底に流れる哲学は何か?について、悟史なりの考えと感想をご紹介致します。
目次
著者《新田祥子》情報
氏名:新田祥子
スピーチの練習を重ねることであがり症克服する方法に疑問をもち、2004年6月「最初のスピーチからドキドキせずに話せる」ようになることをコンセプトにした話し方教室「セルフコンフィデンス」を開設。
「人と脳」の関係を軸に、あがり症やコミュニケーションの問題を解決していく。
セミナーでは、「ドキドキゼロで話せた」99%、「声が震えずに話せた」98%という高い確率であがり症を克服へ導く実績を誇っている。
あがり症と話し方に対して、人間科学と認知行動療法、脳科学に基づく体系化された理論と、商標登録された独自の指導法をもつ。
エグゼクティブ・コミュニケーションカウンセラー。
大学院修士人間科学修了。
東京認知行動療法アカデミー研修上級修了。
一般社団法人SAD社交不安障害対策協会理事長。
話し方教室セルフコンフィデンス主宰。
心臓がドキドキせずあがらずに話せる本の目次・内容
出版日:2007年12月22日
ページ数:193p
著者:新田 祥子(にった しょうこ)
はじめに
プロローグ
対人不安で大学卒業後就職せずに p12
話し方教室との出会い p13
質問に答えられない講師に疑問 p15
講師の指導力不足に憤り p17
専門知識を持つ人材の育成を痛感 p18
科学的に人間を捉え、あがり症を克服する p19
あがり症や対人不安の克服は自己改革 p22
◆第1章◆ 人はなぜあがるのか?
緊張やあがりは評価に対する恐怖心の表れ p24
心臓のドキドキは脳からの危険信号 p27
対人不安やあがり症は病気の一種 p30
話が下手だとあがり症になる? P34
話し方教室へ行けばいいというわけではない現実 p38
対人不安やあがり症の人の特徴 p40
こんなタイプは対人不安、あがり症になりやすい p43
成人後に影響するギャングエイジの過ごし方 p46
全ては両親との関係から始まる p49
自身とはなにか? P51
自身は自己承認で得られる安心感 p53
対人不安は性格のせい?性格って何? P55
考え方や受け止め方の習慣を変えましょう! P58
人前であがらずに話す p61
◆第2章◆ コミュニケーションとは何か?
コミュニケーションとは情報の伝達と感情の共有 p64
人は全身でコミュニケーションをとっている p67
会話はコミュニケーションをとるための手段 p69
全ては脳とのコミュニケーションから始まる p72
表情を変えると不安な気持ちも伝わる p75
人は人の話しの5%しか聞いていない p78
この5つの思い込みがあなたの緊張させている p79
1「うまく話そう」と思えば思うほど緊張する p80
2「言葉」だけで伝えようとすると頭が真っ白になる p84
3「一生懸命に話そう」とすると体が硬くなる p86
4「・・・であるべき」と意識すると言葉が出てこない p87
コラム・否定的な言葉を肯定的な言葉に変える p89
5「自分に注意する」と話題が見つからない p90
緊張する人のメリット&デメリット p92
◆第3章◆ 人間関係を円滑にするアクションの起こし方20
饒舌な人ほど信用がない p96
アクション① 相手の話を聞こう p99
アクション② 「サービスの言葉」を使おう
アクション③ 優柔不断な自分を変えよう p104
アクション④ はっきりイメージできる言葉を使おう p106
アクション⑤ 知っていれば安心、リピート法を活用しよう p110
アクション⑥ 考え過ぎず、見たままを言葉にしよう p114
アクション⑦ 大きな声で話そう p116
アクション⑧ 母音・子音をはっきり発音しよう p118
アクション⑨ 語彙を増やし、表現力を豊かにしよう p120
アクション⑩ 話題は身近にたくさんあることを知ろう p122
アクション⑪ 「繰り返す+褒める+サービスの言葉」を使おう p126
アクション⑫ 物事を感情で受け止めない習慣を作ろう p128
アクション⑬ 感情は解釈によって変わることを知ろう p130
アクション⑭ ポライトネスに気をつけよう p132
アクション⑮ 挨拶でお互いを承認しよう p134
アクション⑯ 嫌いな人や苦手な人とは、こうして付き合おう p136
アクション⑰ 苦手な人ほど行動に注意して観察しよう p138
アクション⑱ 自分の中にいる7人の敵に勝とう p140
アクション⑲ 相手も自分も褒めよう p142
アクション⑳ 誘い水で話のきっかけを作ろう p144
◆第4章◆ 会話ベタを克服するためのセルフトレーニング法
自分とのコミュニケーションを大切に p148
ワークシートを活用してみよう! P150
ワークシート p152
自分を責めてしまう習慣を変える p156
アサーティブな主張性を身につける p159
アサーティブに主張する-実践編 p160
自分から話しかける p163
会話が弾まないときの対処法 p165
弾まない会話の原因はここ p167
黙っているのもコミュニケーションの一つ p170
コラム・間が怖いときの対処法 p171
攻撃的な話し方は自信のなさの現れ p172
感情をコントロールして伝えるための会話術 p174
状況の説明をすることに慣れる p176
ときには弱音を吐こう p178
会話も人間関係も「人間力」 p180
◆巻末付録◆
オススメ読書リスト p184
ビジネスシーンでの話題あれこれp187
相手に不安感を与える言葉一覧 p188
普段の生活でこんなことに気をつけよう! P189
人前で緊張しないためのリラックス法 p190
これからの実践!アクションリスト20 p191
この本を実践して本当にあがり症を克服できるのか?
いきなりですが、「心臓がドキドキせずあがらずに話せる本」では、あがり症克服は不可能でしょう。
この本は不思議な構成を採用しています。
第1、2章であがり症になる心理的・潜在意識的なメカニズムに付いて解説しています。
※本には潜在意識という言葉は使われていませんが、実質的に潜在意識の解説になってしまっています。
そして、第3、4章で人間関係をよくする方法と、話し方テクニックが掲載されています。
つまり、1、2章であがり症のメカニズムを解説しておきながら、3、4章ではあがり症克服に付いてほとんど触れられていないのです。
この本は、「意識的に行動を変える」ということが軸になっています。
例えば、「優柔不断な自分を変えよう」「語彙を増やして表現力を豊かにしよう」「挨拶でお互い承認しよう」などと書かれています。
人間の行動を生み出すのは潜在意識に書かれているプログラムによって生まれます。
そのプログラムをそのままで、行動だけ変えるというのは、ほとんど不可能でしょう。
「優柔不断な自分を、決断できる自分に変えなさい!」と言われてその通りに変われるのなら誰も苦労しないわけですから。(笑)
- 優柔不断な人は、優柔不断であることを選択する理由があります。
- 語彙が足りない人はその状態でい続ける理由があります。
- 挨拶をするのが苦手な人は、それを苦手とする理由があります。
これらの理由は、全て潜在意識にプログラムされています。
顕在意識で、自分が好きなことを、嫌いになったり、嫌いなことを好きになったり、気が短い性格をおっとりした性格に変えたりすることは非常に難しいですし、それができるならメンタル面での問題など起きないでしょう。
意識で変えられないから、世界には、メンタル面・心理面を取り扱う専門家や研究をする人がいるわけですから、、、、
意識で変えられないから、困っているのです。
この本でしか得られない情報・メソットは何か?
この本で紹介されている、話し方のテクニック面での、言葉の使い方や、発音、しゃべり方、などのノウハウはユニークです。
そして、話し方というよりも、コミュニケーションという人間との関係性を良くするという視点での、テクニックが掲載されており、そこがこの本の特色です。
この本の素晴らしい点は何か?
著者が受講生として受けた話し方教室の欠点を参考にして話し方教室を立ち上げ、成長させるというような思想のもとに、この本は書かれています。
そして、それは次の流れで展開されているのです。
コミュニケーションとは何か?の定義付け。
↓
コミュニケーションを良くすると、人間関係がよくなる。
↓
コミュニケーションが円滑になる、話し方のテクニックの紹介。
この本は、コミュニケーションいついての理解を深め、その具体的な方法が書かれているところが素晴らしい点と言えます。
この本の欠点は何か?
この本の大きな欠点は2つ。
(1)あがり症の克服方法が書かれていない。
(2)催眠療法・潜在意識の存在を否定している。
あがり症の克服方法が書かれていない。
この本の構成は次になります。
問題点 | 解決策 |
あがること | なし |
なし | 人間関係の円滑化 |
問題点があがりなのに、それに対する解決策が書かれていません。
逆に問題提起していない、人間関係の円滑化に対する解決策が書かれています。
この本は「口下手な人が人間関係を円滑にする話し方テクニック集」というタイトルにすれば、バッチリでしょう。
催眠療法・潜在意識の存在を否定している
【潜在意識⇔行動】という2つの要素を絶対に認めないという点が、この本の欠点であり、自己矛盾を呈しています。
下はp22の抜粋です。
あがり症や対人不安の克服は、自己改革であると考えます。自己改革というと、催眠療法や潜在意識といったことを連想される人も多いかもしれませんが、決してそうではありません。そのような訳のわからないことに頼るのではなく、人間の「行動」を科学的に捉え、実践を通して実現する自己改革です。ここで言う「行動」は、私たちが一般に考える行動とは少し違いまして、人が生きてすること全てを行動として捉えます。人が生きてすること全てですからそこには、考えること、見ること、受け止めること、感じることなど、それこそ生きてすること全てが含まれます。
「催眠療法や潜在意識を訳のわからないこと」と一言で片付けてしまっています。
心理学先進国のアメリカでは、NLPを使ったコーチングで、成功している有名人が多数いますが、NLPは催眠の要素を多分に取り入れている心理学ですから、催眠療法・潜在意識が訳のわからないものとするのは、あまりにも無理があります。
人間の行動を科学的に捉えると言っていますが、その行動を生み出すのは、潜在意識(無意識)領域にあるプログラムです。
ヘビが嫌いな人は、ヘビを見たときに起こる自分の反応のプロセスを、意識で明確に捉えることはできません。
鳥肌がたったり、気持ち悪くなったりしたとしても、その現象を生む神経の流れを意識で捉えることは不可能です。
何故かと言うと、潜在意識(無意識)領域からくる信号によって、そのような反応が起こるからです。
本書では、潜在意識という要素を全否定して、行動を科学的に捉えると主張していますが、行動を科学的に説明しているヶ所は皆無な上に、あがり症のメカニズムの章はほとんど潜在意識の説明になってしまっています。
思いっきり自己矛盾を抱えた本と言えます。
これはあくまで憶測ですが、潜在意識を全否定しなければならない営業的な理由があるのでしょう。
この本の根底に流れる哲学は何か?
「人間が人間として人と向き合って、円滑に交流することで人は幸せになる」というような哲学がこの本の根底に流れている気がします。
こんなセリフは本文にはないのですが、”新田祥子氏”の思想なのでしょう。
この本を読んでいたら、一対一での会話も大勢を前にしたセミナーや講演も捉え方によってはコミュニケーションをとる場であり、人間関係でもあると思いました。
総合評価
この本は、重度のあがり症の人には全く効果のないものでしょう。
しかし、全てはコミュニケーションという視点を持つキッカケになり、それによってあがった時に①この場面で眼の前にいる人たちに自分は何をするべきか?②何を自分はしたいのか?という問の答えを体現することで、あがりが改善する可能性はあるでしょう。
あがることへの意識を、自分がその場でしたいことへ意識をシフトさせれば、あがりは軽減されます。