あがり症という、社会不安障害は、なぜそれが人間に起こるのか?ということを、体系的に知り、自分のあがり症はこの体系の中のどの部分に位置しており、一体何を改善すれば克服できるのかという視点と理解が必要だと思います。
日本人が出版していあがり症克服本のほとんどは、あがり症という現象の全体像を解析し、体系化するという視点が完全にかけており、小手先の手法を羅列していることに終始しています。
小手先の手法を実践して、実際にあがり症を克服できたならば、それで良いでしょう。
しかし、色々取り組んだけれど、克服の道筋が見えてこないのであれば、あがりとは一体何者なのか?を理解し、自分が何を恐れているのか?を知ることが必要になってきます。
あがり症の本質は、「他人がこわい」という人に対する恐怖が源泉になり、それがたまたまあがりという現象を生んでいるということが分かると、その根っこの正体を垣間見ることがでると思うのです。
この記事では、《他人がこわい》を読み実践することで、本当にあがり症を克服できるのか?この本でしか得られない情報・メソットは何か?この本の素晴らしい点は何か?この本の欠点は何か?この本の根底に流れる哲学は何か?について、悟史なりの考えと感想をご紹介致します。
目次
著者クリストフ・アンドレ(ChristopheAndre)、パトリック・レジュロン(PatrickLegeron)情報
・クリストフ・アンドレ(ChristopheAndre)
精神科医。トゥールーズの大学で精神医学を学んだあと、パリのサンータンヌ病院に勤務。
社会恐怖および集団精神療法の専門家で、企業の顧問医も務めながら、パリやボルドーなどいくつかの大学で講座を持っている。
邦訳された著書に、『自己評価の心理学」『難しい、性格の人との上手なつきあい方」『感情力』(以上、共著)、『こころのレシピ」(すべて紀伊国屋書店)がある。
・パトリック・レジュロン(PatrickLegeron)
精神科医。
ストレス、不安障害、気分障害、認知行動療法の専門家で、パリのサンータンヌ病院で診療にあたる一方1989年に自ら設立した企業向けの相談室を主宰。
《認知行動療法ジャーナル》誌の編集長も務めている。
邦訳された著書に、『働く人のためのストレス診察室』(紀伊国屋書店)がある。
他人がこわいの目次・内容
出版日:2007年3月22日
ページ数:337p
著者:クリストフ・アンドレ(ChristopheAndre)、パトリック・レジュロン(PatrickLegeron)
第一部 社会不安はこうして現れる p15
第一章 4つの状況 p16
1 他人の前で発表をする、演技、演奏、競技をする。
2 よく知らない相手と話をする、異性と会話を交わす。
3 他人に何かを要求する、自己主張をする。
4 他人に見られながら、日常的な行為をする。
第二章 体は不安を知っている。 p49
不安を感じているとき、体はどんな反応をするか
様々な身体の反応、様々な悩み
赤面症と赤面恐怖
身体反応には意味があるか
第三章 行動が不自然になる p70
他人とのコミュニケーションがぎこちなくなる
社会不安を感じる状況を回避する、逃避する
極度に消極的になる、攻撃的になる
第四章 ものの見方がネガティブになる p86
パターン化する思考
不安を感じる状況での3つの思い込み
予期不安-〈最悪のシナリオ〉を描いてしまう
不安は常にそこにある
不安は現実になることはあるか
第二部 社会不安の4つのタイプ p107
第一章 あがり症 p111
あがり症、それとも社会恐怖?
どんなときにあがってしまうのか
異性の前で・・・
第二章 内気 p120
内気とはなにか
内気な人が恐れているもの
内気さはどのように外に表れるのか
内気な人の長所
内気な人の苦しみ
第三章 回避性人格障害 p134
不安を感じる状況を常に避けようとする
常に先回りしなければならない苦しみ
自分の回避行動を正当化する
第四章 社会恐怖 p146
社会恐怖とはなにか
ふたつの社会恐怖
苦手な対象に対する激しい恐れ
徹底した回避行動
社会恐怖が及ぼす影響
社会恐怖と依存症
社会恐怖とうつ
第三部 どうして社会不安を感じるのか p167
第一章 脳が不安を作り出す p168
脳の2つのはたらき
脳のコンピューターの6つのエラー
心の奥に潜む、絶対的信念
相手に気に入られたいという思い
過剰な自意識
第二章 社会不安はどこからくるのか p187
絡み合う3つの要因
遺伝-社会不安の生物学的要因
家庭環境とトラウマー社会不安の心理的要因
時代と文化-社会分の社会学的要因
第四部 社会不安を克服する p207
第一章 薬物療法と心理療法 p212
薬物療法
心理療法
薬物療法と心理療法の併用
第二章 もう逃げたくない p225
エクスポージャー法の実践
実例-アランのケース
エクスポージャー法についての注意
第三章 上手にコミュニケーションする p240
社会能力を伸ばす
実例-アニータのケース
第四章 ものの見方・考え方を変える p252
認知療法のプロセス
実例-フィリップのケース
フィリップへの認知療法
第五章 軽度の社会不安を治療すべきか p272
発展途上の社会不安研究所
あがり症のジャン・ミシェルのケース
赤面症のパトリシアのケース
軽度の社会不安の治療について
一人でできる認知行動療法
個人カウンセリングによる社会不安の改善
終章 自分が裸であることに気づいたら p295
監訳者あとがき p299
註 p314
付録 p338
心理テスト あなたは対人関係にどのくらい不安を感じているか
社会恐怖(社会不安障害)の診断基準
回避性パーソナリティ(人格)障害の診断基準
社会恐怖を理解するために
社会恐怖とたたかうために
他人がこわい(あがり症、内気、社会恐怖の心理学)この本を実践して本当にあがり症を克服できるのか?
結論から言うと、この本を体系的に理解し実践すれば大きな進歩が期待できると考えます。
この本は大きく分けると次の2つのパートで構成されています。
(1)社会不安という人間の内側に生まれる大きな障害物の正体を解き明かす
(2)その正体を克服する具体的な方法を提示する
Step1 序章、第一部~第三部で、社会不安の正体を解き明かす
↓
Step2 第四部で解き明かした社会不安を克服する具体的な方法を提示
という流れになっています。
社会不安の正体が見えてくる
序章、第一部~第三部での、体系化された分析と、とてもわかり易い解説は秀逸です。
あがり症になると、周りの人は普通にできていることが、自分はできないという思いに駆られます。
そして、特別な欠点を持っているような気持ちになる人が多く、それがさらにあがり症を悪化さる要因になります。
しかし、社会不安が生じ得る場面は次男4つあると本書第一部では書かれています。
1.他人の前で発表をする、演技、演奏、競技をする
2.よく知らない相手と話をする、異性と会話を交わす
3.他人に何かを要求する、自己主張をする
4.他人に見られながら日常的な行為をする
この4つの場面に共通するのは、その結果がどうなるかはやって見るまで分からないという、不確実性です。
相手は人間なので、どういう反応をして、どう評価してくるのか?が分からないのです。
- 他人の前で発表する場面では、ギャラリーから罵声をあびるかもしれません。
- よく知らない相手と話しをする場面では、相手の好みが分からないので、自分のふとした言動で相手の気分を害するかもしれません。
- 他人に何かを要求する場面では、自分の要求が無視されて、その結果悲惨な事態になるかもしれません。
- 他人に見られながら日常的な行為をする場面では、見ている人からバカにされるかもしれません。
他人がどう反応し、自分に対してどのような評価を下すのか?が分からないのです。
これは、常に恐怖であり、社会不安が生まれるキッカケに常になりえます。
そして、このことは特定の誰かが対象ではなく、誰にでも起こり得ることです。
そして、これ以外のたくさんの多角的視点で社会不安の正体の根本を解き明かす、分析が盛り込まれています。
一通り読み終えた段階で、あがり症という自分に起きている現象の捉え方が変わっているのを体験できるでしょう。
あがり症は、他人が自分に対して取る反応への恐怖から生まれるということが分かります。
これをどう攻略するかが、あがり症克服のカギであるし、逆に言うとそのポイントから外れている方法は、望む結果をもたらさないということも分かってきます。
具体的で体系的な克服法が明示されている
克服方法について書かれた第4部は次の要素で構成されています。
第1章 薬物療法と心理療法
第2章 もう逃げ出さない
第3章 上手にコミュニケーションする
第4章 ものの見方・考え方を変える
第5章 軽度の社会不安を治療すべきか?
もう少し詳しくお伝えすると次になります。
第1章 薬物療法と心理療法
薬物療法の効果と、活用方法についての解説。
心理療法の一つである「認知行動療法」の解説。
薬物療法と認知行動療法の併用の方法についての解説。
第2章 もう逃げ出さない
エクスポージャー法の実践方法の解説。
エクスポージャー法(暴露療法)の実践手順が書かれており、次のステップを回すことで、社会不安を克服していくというものです。
《エクスポージャー法の手順》
項目 | 内容 |
1.問題点をはっきりさせる | 「どういう状況に置かれると、社会不安を感じるようになるか?」 |
2.不安を感じる状況をリストアップする | 「これらの状況には、たとえばどういうものがあるか?」 |
3.リストアップした状況を、難易度順に並べ替える | 「不安がいちばん小さいのはどの状況か?また、もっとも避けたい状況はどれか? |
4.エクスポージャーの準備をする | 「これらの状況に立ち向かうために、何を受け入れなければならないか? |
5.エクスポージャーの計画を立てる | 「どういう順序で、どういう時に行うか?」 |
6.エクスポージャーを実行する | 「思い切ってやってみよう」 |
7.結果を評価する | 「うまくいったのはどういう点か?改善すべき点は?」 |
8.継続する | 「何度か成功することで、別の状況にも挑戦できるようになるだろう」 |
この8つのステップは非常に秀逸であり、これを一巡するだけで、自分が持っている社会不安がいかに勝手な妄想によって生まれているという事実に、気付かされるでしょう。
そして、このステップを何回転も回せば、大きな変革が可能だと思います。
第3章 上手にコミュニケーションする
ここでは、対人関係におけるコミュニケーション力をアップする方法が解説されています。
現時点での自分のコミュニケーション力を採点するツールも用意されており、その一つは次のようなものです。
《対人関係における問題点を計測する》
難易度 0=非常にやさしい 10=非常に難しい |
親しい相手 | 面識のある相手 | 初対面の相手 | 気おくれを感じる相手 |
ポジティブな話、楽しい話をする | ||||
ポジティブな話、楽しい話しをされる | ||||
頼み事をする | ||||
頼まれたことを断る | ||||
批判をする | ||||
批判に対して反論する | ||||
会話を交わす |
空欄に、0~10の評価を記入してみると、対人コミュニケーションにおける、自分のテーマがはっきりとしてくるでしょう。
伸ばすべきところと、克服すべきところが判明します。
第4章 ものの見方・考え方を変える
この章では、物事の見方・考え方を変える方法が解説されています
次のように実際に体験した場面について、記入して自分がどんな見方・考え方をしているのかを俯瞰します。
《不安を感じる状況で思ったことのメモ》
状況 | 自分の行動 | その時に思ったこと |
例 アパートの階段ですれ違った隣人に、「今日はいい天気ですね」と声をかけられたのに、返事ができなかった。 |
例 しどろもどろになった。相手の言っていることがよくわからなかった。ほとんど相手の顔が見られなった。 |
例 「僕はばかみたいに見えるだろう」「僕はいつだって誰かに話しかけられても直ぐに返事ができないんだ」 |
日々起きた出来事について、上記の3つの事項を書いていくことで、自分のどんな見方・考え方が社会不安を生み出しているかが、明確になっていきます。
第5章 軽度の社会不安を治療すべきか?
この章では、社会不安に関する近年の、諸事情について書かれています。
現在の医療期間では、薬物療法と認知行動療法を提供できる医師が少なく、実際の成果を出すことができないということが書かれています。
この本でしか得られない情報・メソットは何か?
この本は、あがり症という現象を社会不安という医学的な見地から、体系化しその本質的な問題点を誰でも理解できるように、平易な表現で解説されています。
ですので、あがり症についての全体像が見えてきて、さらに克服するための具体的で詳細情報を得ることができます。
そして、それは非常に秀逸なものになっています。
この本の素晴らしい点は何か?
社会不安という病巣を、社会問題として捉え、そのあり方についても語られています。
自分があがり症であることで、悩んでいる方にとって、今自分が社会で置かれている立ち位置はどこにあるのか?という問にも答えをくれます。
悟史は、20代の時本当に苦しかったのです。
それはあがり症である自分が、この社会では全く無用の長物でしかなく、その解決策に関してもヒントをくれる人、機関は存在しなかったという点で、苦しかったのです。
ただ漠然と、自分が社会にとって要らない人間だという自己認識を持っていたのです。
それが、この本によって、どこに位置するのかが、少し見えて来ました。
もちろん、あがり症を克服するという結果を出すためにも、秀逸な本ですが、それだけでなく、自分の居場所を見出すキッカケをくれる本でもあります。
この本の欠点は何か?
この本の限界は、本だということです。
この本に則り、カウンセリング、投薬の治療を行ってくれる医療機関があるとしたら、あがり症克服の可能性は飛躍的に高まると思います。
しかし、この本を読んで誰の力も借りずに一人で実践し、結果を出すというのはやはり高いハードルがあると思います。
それと、気になるのは、物事に見方・考えかたを認知行動療法で変えることができなかった場合の、手立てが無いという点は、致命的な欠点と言えるでしょう。
この本の根底に流れる哲学は何か?
二人の著者は、精神科医であり、社会恐怖、ストレス、不安障害、気分障害、認知行動療法の専門家です。
そして、その治療にあたり、障害になっている社会的な扱いや、医療機関の事情による問題いついても、深い見識を持っています。
実際に治療を行う機関の実態も踏まえて、社会不安を克服する道筋を模索しているという点が、この著者が持っている観点であると感じます。
総合評価
あがり症の方、また社会不安と言われる症状があるかたは、まずこの本を何度も何度も読んで、そして第4部を愚直に実践することをおすすめします。
直ぐには解決しなかったとしても、何らかの進捗は生まれるはずです。
再度になりますが、この療法の優れた使い手、優れた治療家が日本にいればよいと、強く思います。
この本は、200%おすすめの本です!